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百花為君開

ケガをした家族の看護の、気を抜くことができなかった最初の2週間が過ぎると、抜かすことの多かった食事を私もようや食べる気持ちになり、自分を癒す時間のためにも、パンを齧って眠るのではなく、わずかな時間があれば、できるだけレストランできちんと取るようにするようにした。

自分の治療もしなければならず、家族の看護や、それに関する手続きと走り回る駆け足の時の間で、ちゃんとしたレストランに入ると、磨かれたカトラリーや、色々なスパイスやパスタのデスプレイに慰められた。
ケガをした人も、ほとんど動いてはいけない状態の時に、ガイドブックにも載っている地元で美味しいと評判で、見た目にも美しいケーキを買って行き、ちゃんとしたコーヒーを飲ませると、とても喜び、元気が出たと言ってくれた。
寝たきりでトイレに行くことさえできない状態の者にも、笑顔を取り戻させ、これからをがんばろうと思わせる・・・そんなことも含めて、ただ食べるだけ、栄養を摂るでなく、食の文化は偉大だなと改めて感じた、

私も、そんな自分の治療と看護の合間に入ったレストランで、また本を読み出す気持ちにもなった。
石井好子は、『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』しか読んでいなかったが、『私の小さなたからもの』も、食通で海外生活もある、作者の、使い込まれた、あるいは、こだわりの品々の話かと思っていたが少し違った。もちろん特別な想いの絵や皿などの話もあり、写真も載っているが、いちばんの宝物というのは、人からもらった心、そして、その人とのかけがえのない思い出なのだ。

なかでも、レオナルド・フジタやジャコメティなどの、ほんとうの芸術化同士の交流の思い出は、心に沁みるものがあった。
また、それをもらった年に亡くなった父親から色紙に書いて贈られた言葉「百花為君開」の思い出も、感慨深い。
当時、石井は夫を亡くして一月ぐらいしか経っていない沈んだ状態で、この言葉が、その時には意外でさえあり、自分には全く合わないと感じたが、そういう時だからこその言葉であったこと、娘を深く想う父親の愛情が、時を経て確かに届いて、宝ものになったという。

それと、私が知った時には、既に老齢でベテラン中のベテランであり、揺ぎなく見えた石井の、歌手として、ステージに立つ者としての恐れや痛みを知り、とても驚いた。
比べるのもおこがましい小さなステージであっても、舞台に出た後は、なかなか眠れないことや、その恐れや痛みは、私も全く同じに感じていたのだ。そして、それらは慣れてゆけば少しずつ減ってゆくものかと思っていたが、晩年の石井好子にでさえ、消えることのなかったということに、さらに慄く。

舞台は、恐ろしいところだ。けれども、同時に懐かしい大切な場所だ。
私もまた、あの舞台へ帰ろう。

秋のソロライブ「フォルテピアニシモ vol.8 ~ Rebirth ~」に使うための選曲を始める…




 他の人は知らない、しかし私は化粧を始めるときから緊張で胸が重くなってくる。不安がのしかかっかてくる。出演時間が近づいて最後に衣装をつける。鏡にうつった自分の姿に向かって「しっかりしろ」と言いきかせる。「神様お守り下さい」と祈る。幕が上がる。強い強いスポットライトで目がくらみそうになるがそれに負けたらもう終わりである。ボクサーのようだとよく思う。明りに照らし出されてリングの上で黙々と闘うボクサー。私に向かってくる相手はいない。しかし私の相手は私の心である。明りの中で一人、自分と闘って無の心になり歌に入ってゆく闘いである。観客席は黒い海だ。その海を前に一人立っている孤独感、それを全く知らない人がいる事に私はおどろき、傷ついた。
  (石井好子『私の小さなたからもの』 河出書房新社)
プロフィール

いつのえみ

Author:いつのえみ
伊津野重美 

第一歌集『紙ピアノ』
1st Album『ひかりの素足』
詩誌『生命の回廊』発行・編集。

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フォルテピアニシモ vol.14
 
~ Keep the holy fire
       burning ~

伊津野 重美 朗読

2016年11月3日(木・祝)
12:30 開場/13:00 開演

場所:STAR PINE'S CAFE

前売・予約¥2,500円+1drink
ペアチケット前売・予約のみ
     ¥4500+2drink
当日¥3,000円+1drink
チケット前売発売10月3日より
 前売は店頭販売かweb予約
予約アドレス
https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636

STAR PINE'S CAFE
http://www.mandala.gr.jp/

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伊津野重美 1st Album 

『ひかりの素足』
歌人伊津野重美による初の朗読アルバム。
ゲストにチェリスト森重靖宗を迎えて、
宮沢賢治の童話「ひかりの素足」と
日本近代詩の抒情世界を精緻に紡ぐ。

全9曲、48分。定価 2,500+税

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「生命の回廊 vol.3
『えーえんとくちから 
  笹井宏之作品集』特集号」

2011年11月刊行

井口和泉 浦歌無子 
岸田将幸 斉藤斎藤
斉藤倫 樋口由紀子
ひろたえみ 三角みづ紀
ヤリタミサコ 夕暮マリー
伊津野重美

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