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「雨ニモマケズ」をめぐって、いま思うこと

桜の咲く頃までは冬並みに寒い日があり油断ができないが、桜も散る頃となると、悪寒や熱や咳に苦しんでいた体がとても楽になり、ようやく今年の冬も乗り越えることができたと安堵する。
桜までは逡巡していた春は、桜が散ると一挙になだれ込んで来て、ぼうっとしている間に、牡丹や芍薬や藤や薔薇などに移り、改めて生命の輝きに驚かされる。
しかし、四十九日を過ぎ、現状に対して新たな悲しみを覚える。特別な痛苦のなかでの春となった。

政府の嘘や隠蔽が一つ一つ明らかになるにつれ、怒りを通り越して、失望のあまり無気力になっていた。天災は、どんなに過酷なものであろうとも、ある意味仕方がない。しかし、原発の問題は人災であり、その後の対応の不味さや不誠実さなどは、自国民への国家的な殺人行為であるようにすら感じている。
なかでも、言葉を使う作家や学者達は、政府の嘘などに対して、もっと声をあげるべきだと思うのだが、言論統制や報道規制に対しての意見を、ほとんど見ることがないことにも、大きな驚きと失望があった。
それぞれの仕事や日常をこなすことは大事だ。だが、いま事実は隠蔽され、私達は脅威のなかにあり、人の命が、とくに最も守らなければならない子供達の命が脅かされている。もっとやるべきことがあるのではないだろうか。 
この大きな災害から、作家としてどのような言葉を紡ぎ、作品にするか、人として何をし、何をしないか、私達の人間が試されている。
まだ不明となっている家族や大切な人を瓦礫のなか捜し続けている者達も多いなかを、また震災で命を落とされた方々の御霊が、中有に彷徨っている時に、たやすくこの震災の作品を作ってゆく者達に恐れを感じた私は、作者として弱いのだろう。
大切な人を亡くされた方々の心には、一年経つとも、三年経つとも、区切りがつくというものでもないであろうが、一般の人達はいい、少なくとも言葉を「作者」として使う者達には、たやすくこのことを「燃料」にしてほしくはないと思ってしまう。少なくとも、覚悟をもって表現してほしい。
ほんとうにこの震災を、嘆き、怒るのでならば、言葉を使う者達は、政府に訴えたり、言論で世を動かしてゆく役割があるのではないだろうか?

一方このような災厄のなかでの、被災者の方々の強さや我慢強さには、頭が下がる。けれども、これ以上、自分を押さえつけないで、怒るべきところは怒ってほしいと思う。
私は、辛い目に遭っている人達に、頑張ってと言うことはできない。
家族や家や仕事や故郷を風景ごと失って、頑張ることなんてできるのか・・・
私にはできない。ただ、なんとか生き抜いてほしいと願うばかりである。

そのような人達に寄り添うように、現地で仕事をされている方々、ボランティアの方々にも感嘆する。
ボランティアの方々のテントには、4月にも雪が積もっていて、思わず涙が出た。力仕事ができなくとも、こんな時に飛んでいき、お年寄りや子供達に寄り添ったりしたいものだが、安全な場所で暖かく、食べるものも充分にあり、医療も受けながらも、毎冬を恐々と過ごしている不甲斐ない自分が、改めて情けなく、悲しい。

4月の頭にあった朗読会では、そんな私にもできるかもしれない唯一のこととして、この震災で傷ついている方々の苦しみ悲しみを少しでも慰めたく、私は宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を初めて朗読した。その後、新聞で読んだところによると震災以後、この詩が入った賢治の詩集が売れているという。冷たい雪のなか苦難のなかを、じっと耐えている東北の方々の辛抱強い姿に打たれ、この賢治の詩精神が表れていると、多くの人が感じたのであろう。 
私自身も、賢治の作品をよく朗読してきたが、優れた作品であればあるほど、それを読むための能力や体力、心の熱量を伴わねばならないようで、あまりにも有名で、あまりにも自分から遠い、この「雨ニモマケズ」を朗読する日が来るとは思ってはいなかった。

困っている人達があれば、飛んでゆき、荷を背負い、慰めたいと思うも、そのための丈夫な体が私にはない。いま現地で危険や不自由のなかで、悪臭のなかを腐った魚を手で掴み、粉塵のなかをシャベルでヘドロを一掬い一掬いしている人達の尊い姿に手を合わせるのみである。

この「雨ニモマケズ」は、賢治の死後に手帳に書き付けられていたのが発見されたもので、賢治自身が詩作品として考えていたかは、判然としていない。
研究者によって意見の分かれるところであり、私が不用意に述べるべきではないのだが、手帳の状態をみると、私自身は、これを賢治は詩としては捉えず、自分を戒める、そして、目標とする言葉にして自分を律していたのではないかと思う。
そして、これは、賢治が病床で書いたとされている。丈夫な体で、人のために我が身を使いたいという強い願いによって書かれたものだったのだ。

「雨ニモマケズ」が、こんなにも人の心に響くのは、賢治の無私の愛ともいうべき、稀有な精神ゆえなのである。
賢治は、これを発表しようともしていなかった。名声も、富も求めず、ただ、このことを切に願い、これを書いた。その純粋で深い魂に私達は打たれるのだ。

同じ4月の朗読会で、東直子さんが震災や原発関連の新作の一連を朗読されていて、それは、作品も朗読も、ほんとうに素晴らしかった。また、東さんの純粋で清らかな心に触れることができ、癒されるものであった。まだ震災から一ヶ月も経っていなく、会の開催自体が危ぶむまれたあの時期に、あのような美しい朗読を聴くことができ、たいへんななかをいらしていただいた方々に聴いていただき、一緒に会を作った者として、ほんとうによかったと思う。
同じ震災のことを題材にするにしても、一方は、単に作者のために安易な「ネタ」になり、もう一方では、止むに止まれぬ感情から作られた、人の心を動かす素晴らしい作品になる。このように作者の能力や心の持ち方次第であるのかが難しいところではあるが、優れた作品、心のこもった言葉は、人を支える大きな力で希望にもなることも忘れないようにして、人の大きな悲劇に触れていることに恐れをもちながらも、怯え過ぎないようにしたい。

震災直後は、私はこのことを自分が書くことはできないと思っていた。けれども、今は違う。どんなに拙くても、被害に遭われた方々のお気持ちに合わなくとも、この不幸に向かい合い、何がしかの言葉を紡ぐことが、同時代に生きていて目撃した、私にできる誠意でもあると思う。むしろ、書かねばならない。
個人的に記していたと思われる、この「雨ニモマケズ」が、こんなにも人口に膾炙していることを賢治自身は喜ばないような気がする。それでも、それも併せて、私にはここに、詩人の、そして、詩の原点があるように感ずるのだ。
賢治と同じようになどはできない。だが、私達、物書きは、賢治の深遠な精神と潔癖な態度を忘れてはならないように思う。
自戒をもって、ここに記す。

私達は、なんのために詩を、短歌を書くのか…





  雨ニモマケズ

     宮澤賢治


雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ陰ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病気ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ




kizuna311 #01 渡辺謙「雨ニモマケズ」朗読

プロフィール

いつのえみ

Author:いつのえみ
伊津野重美 

第一歌集『紙ピアノ』
1st Album『ひかりの素足』
詩誌『生命の回廊』発行・編集。

********************

フォルテピアニシモ vol.14
 
~ Keep the holy fire
       burning ~

伊津野 重美 朗読

2016年11月3日(木・祝)
12:30 開場/13:00 開演

場所:STAR PINE'S CAFE

前売・予約¥2,500円+1drink
ペアチケット前売・予約のみ
     ¥4500+2drink
当日¥3,000円+1drink
チケット前売発売10月3日より
 前売は店頭販売かweb予約
予約アドレス
https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636

STAR PINE'S CAFE
http://www.mandala.gr.jp/

**********************

伊津野重美 1st Album 

『ひかりの素足』
歌人伊津野重美による初の朗読アルバム。
ゲストにチェリスト森重靖宗を迎えて、
宮沢賢治の童話「ひかりの素足」と
日本近代詩の抒情世界を精緻に紡ぐ。

全9曲、48分。定価 2,500+税

**********************

「生命の回廊 vol.3
『えーえんとくちから 
  笹井宏之作品集』特集号」

2011年11月刊行

井口和泉 浦歌無子 
岸田将幸 斉藤斎藤
斉藤倫 樋口由紀子
ひろたえみ 三角みづ紀
ヤリタミサコ 夕暮マリー
伊津野重美

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