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命のスープ・辰巳浜子と芳子、そして井口和泉

暑さに免疫が弱っていたのか、ここ数日は皮膚が四重苦ぐらいになり地腫れして熱と痛みをもっていて、冷やしながら眠るようで、なかなか苦しい。
私は皮膚も極端に弱く、レースの靴下やサンダルでも皮が剥け、虫に刺されても水ぶくれができて化膿してしまう。子供の時は木の下を通っても、かぶれてしまい、低学年の頃には暑いのに嫌な臭いの薬を塗られ、体中包帯巻きで、しかもエアコンもないなか、長袖を着せられていて辛かった。十代の頃は、家の庭の薔薇の下を通っただけで、毛虫の粉に烈しくやられて全身が腫れ上がり、肝臓への解毒の注射を打ってもらうも、高熱を出しひどく苦しんだことが二度あった。今はこれでも、数段マシといえる。
ボルタンスキーではないが、なんだか夏は、忘れていた子供の頃のことを思い出す。
この世界に耐性のある体で生まれてきたかったが、思いがけず、このような弱い体で今まで生き続けてくることができ、途中力尽きていった者達を思えば、私はとても幸運だった。

まだ猛暑が続くというものの、夏の初めにはいただくと困ったほどの大きかった夏野菜が痩せてゆき、確実に夏が終わっていこうとしていることに気付く。終わろうとする季節がさびしいのも、不思議に夏だけだ。

ひたすら休みは、体力温存をしていた。そのなかで、友人の料理研究家の井口和泉さんからいただいた辰巳芳子さんの『庭の時間』に心を慰められる。単に料理本でなく、エッセイでもあり、お庭の四季やお料理の写真も美しい。
私は、元来の病身ゆえ食べるものには興味をもっていて、もともと無農薬の玄米などを発芽させて食べていた。
これは、私だけでなく、同じ時に入院していた十代の女の子達は、みな食べ物に興味があったように記憶している。最も生命力の溢れている時に、うまく食べること、生きることができないのであるから、当然といえば当然だろう。
病院の朝ごはんに出た牛乳を窓辺に置いておいて、ヨーグルトを作ろうとして失敗したり、十代の身には高価な一本売りのバナナを食べたり、私は知らなかったアーティチョークを食べる子も、逆に食べ物を拒否して、一緒に風呂に入ると骨盤やあばら骨が露な子もいて、看護婦さんから私にその子が倒れないか注意してほしいと言われた。その私自身も、入浴の時間が長いと怒られ驚いた。私ぐらいに弱っている者は体力を消耗するので、体と頭を一緒に洗ってはいけなかったそうなのだ。
その一本売りの高級バナナを食べている子に、看護婦さんが、「バナナはカロリー高いよ」と言っていて、その子は、「でも、健康にいいんだよ」と諭していた。
実際に分かっていないのは、学んできて働いている看護婦さんの方だった。
もっと幼い私達は、なんとか生きようとして苦しんでいたが、若くて充分にきれいな看護婦さんは、見た目やダイエットが大事なのだ。

和泉さんと出会うよいりも以前に辰巳芳子さんの命のスープの本を読んでからは、人工の出汁を使わなくなった。毎日のお味噌汁を何も鰹節から出汁を取らなくとも、煮干でも充分においしいのだ。
毎日食べる玄米を発芽させることと、煮干の頭とおなかを取っておくくらいならば、食にそんなに時間や気をかけることができない私でも簡単にできる。

そして、奇しくもこの夏に読んでいたのは、その母、辰巳浜子の『料理歳時記』であった。
誰か文人が推薦していただけあって、文章もやはり単なる料理本に留まらずに素晴らしい。読みながら、中勘助の『銀の匙』のことを何度も思い出した

この浜子さんの本では、「胡麻は砂やゴミを取り除き」などあるように時代を感じさせ、今は既に失われた美しい風景や食のことも書かれている。
私達は便利さを享受するあまり、大切なものを引き換えにしてしまったようだ。

浜子さんの料理はあくまでも家計を預かり、家族の健康を気遣う主婦感覚で、高価な特別な材料を使った特別な料理ではなく、ただ新鮮な本物の食材と、心と時間を使った、家庭料理であることもうれしい。
ポテトチップは、実質のじゃがいもは一個半くらいであり、一袋100円は高い。これではいくらお給料があがってもやっていけないと、自家製のポテトチップの作り方も書いてあり、心が乱れると安易なジャンクフードも欲っしてしまう私は、少し肩身が狭かった。
また、浜子さんは、明治女の気骨が見え、人としての心の持ち方や公害などにも、ぴしゃりと苦言を呈することができる人で気持ちがいい。
浜子さんの愛情で育ってきた芳子さんは、もっと穏やかで優しい。

浜子さんは、単にセンスが優れていただけではなく、十代で「白和え」を作り、他所から入手した美味しい白和えを研究すべく、白和え部分を洗い落として一つ一つの具材だけを味わい、味を近づける試行錯誤をするなどの、探求心にも舌を巻いた。 

そして、最後には、こう結ばれたいた。
「三度三度の食事も一期一会と考え、ゆるがせにはできません。たゆみない熱意は愛情のうえに育つわけです。命あるかぎりなにごとも努力しつづけようではありませんか。」


今年1月に笹井さんの一周忌で有田へ行く前に、会いたかった和泉さんと歌無子さんに博多でお会いした。料理本の撮影で帰宅も未明で、ほとんど眠っていないはずの和泉さんは時間を割いて、私と歌無子さんを家に招き、私がちゃんと眠っているかを気にしながら料理を作り、心づくしのおもてなしをしてくれた。
私の痛んだ心身のために温かでヘルシーな豆乳鍋と何種類もの手の込んで見た目も美しい野菜などの前菜であって、お心遣いに思わず涙がこぼれた。これは、無私と献身である。


食べ物と人の愛は命の源、そして、料理は、人を幸せにする「愛」の技で、また厳しい「道」でもあるなと、改めて思った。

プロフィール

いつのえみ

Author:いつのえみ
伊津野重美 

第一歌集『紙ピアノ』
1st Album『ひかりの素足』
詩誌『生命の回廊』発行・編集。

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フォルテピアニシモ vol.14
 
~ Keep the holy fire
       burning ~

伊津野 重美 朗読

2016年11月3日(木・祝)
12:30 開場/13:00 開演

場所:STAR PINE'S CAFE

前売・予約¥2,500円+1drink
ペアチケット前売・予約のみ
     ¥4500+2drink
当日¥3,000円+1drink
チケット前売発売10月3日より
 前売は店頭販売かweb予約
予約アドレス
https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636

STAR PINE'S CAFE
http://www.mandala.gr.jp/

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伊津野重美 1st Album 

『ひかりの素足』
歌人伊津野重美による初の朗読アルバム。
ゲストにチェリスト森重靖宗を迎えて、
宮沢賢治の童話「ひかりの素足」と
日本近代詩の抒情世界を精緻に紡ぐ。

全9曲、48分。定価 2,500+税

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「生命の回廊 vol.3
『えーえんとくちから 
  笹井宏之作品集』特集号」

2011年11月刊行

井口和泉 浦歌無子 
岸田将幸 斉藤斎藤
斉藤倫 樋口由紀子
ひろたえみ 三角みづ紀
ヤリタミサコ 夕暮マリー
伊津野重美

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