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「わたしを離さないで」 
紹介状をもって専門的な科がある大きな病院に行く。
駅からずいぶん歩き辿り着くと、大きな木に囲まれて、その病院はあった。
ずいぶん昔から建っているのだろう。今年の終わりの紅葉がきれいで、降る葉の下を通る。

その日にできる検査はして、残った検査は薬を体に入れていくので反応が出てしまうかもしれず、一つの検査をしてから一週間は間を取らなくてはいけないようでクリスマスや年明けまで検査が続く。

病院に通うのには、体力も気力もいる。どうしようもなくなるくらい悪くなるか、あるいは皮肉なことだが、病気に立ち向かう心身と時間の余裕がないと本格的に取り組めない。
診察までに3時間もかかり、それから検査で5時間も病院にいたので、朝、バナナとヨーグルトを食べたきりでお腹がすくが、寒くならないうちに帰りたかったので、急いで帰ってきたが、帰り着く頃には暗くなった。

長時間になるのを覚悟して最初手に取った井上荒野の本は置いて、持ち歩くには厚く重いので迷ったが、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」(早川書房)に変えて正解だった。
私は普通の単行本だと、2時間もしないで読んでしまう。
この本は長時間をもってくれ、帰ってから少し残った結末を読んでちょうど終わった。
しかし、「わたしを離さないで」は、名作であることしか知らなかったのだが、病院で読むのには向かないもので、愛する人を看取る話だった。

語り手のキャシーは、同じ施設で育った親友とその恋人トミーを介護人として見送る。
そのキャシーの回想によって、施設の子供達は、臓器提供者となる「使命」のためにだけに作られたクローンであったことが分かってくる。
ほんとうはキャシーとトミーが最初から心を通わせ合っていながら、親友に仲を裂かれたり、ささいな行き違いなどから一緒になれず、離れてしまう。親友が使命を終える前に最後の贈り物をしてくれたことで、やっと結ばれるが時は既に遅く、トミーは、もう2度の「提供」の後だった。
提供者は早くて2度で使命を終える者もいて、3度が普通、もって4度目が最後で使命を終える・・・
こう書くと設定はシュールだが、細やかな人間の心の襞や抑制された端正な文体はとても素晴らしく、人間や愛や命のことを考えさせられる。

「Never Let Me Go」は表題であり、まだ自分の運命や自分が子供を産めない体の「提供者」であることを知らない女の子であるキャッシーがお気に入りの曲で「ベイビー、ベイビー、わたしを離さないで」というフレーズが好きで、赤ちゃんを抱きあやすようにしながら踊っている場面などで出てくる。
親友とその恋人を送る話と簡単に書いたが、正確には親友だけ看取り、最愛の人と終末期直前にやっと一緒になることができながら、ほんとうの最期には共にいること、看取ることを拒絶される。
「Never Let Me Go」という切ない主題が繰り返し迫ってきた。

人間は、どうにもならなく切なく愛おしく、孤独なものだ。
けれども、ほんとうにどうにもならないのだろうか…


明け方だったろうか。流れる涙で目が覚めた。
夢のなかでも孤独を感じたためか、咳が苦しかったのか、この本の結末が悲しすぎたせいか…
その全部であるのかもしれない。
プロフィール

いつのえみ

Author:いつのえみ
伊津野重美 

第一歌集『紙ピアノ』
1st Album『ひかりの素足』
詩誌『生命の回廊』発行・編集。

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フォルテピアニシモ vol.15
 
~ All can sing ~

http://paperpiano.la.coocan.jp/sing%20html.html

伊津野 重美 朗読

2017年11月3日(金・祝)
12:30 開場/13:00 開演

場所:STAR PINE'S CAFE

前売・予約¥2,500円+1drink
ペアチケット前売・予約のみ
     ¥4500+2drink
当日¥3,000円+1drink
チケット前売発売10月3日より
 前売は店頭販売かweb予約
予約アドレス
https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636

STAR PINE'S CAFE
http://www.mandala.gr.jp/

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伊津野重美 1st Album 

『ひかりの素足』
歌人伊津野重美による初の朗読アルバム。
ゲストにチェリスト森重靖宗を迎えて、
宮沢賢治の童話「ひかりの素足」と
日本近代詩の抒情世界を精緻に紡ぐ。

全9曲、48分。定価 2,500+税

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「生命の回廊 vol.3
『えーえんとくちから 
  笹井宏之作品集』特集号」

2011年11月刊行

井口和泉 浦歌無子 
岸田将幸 斉藤斎藤
斉藤倫 樋口由紀子
ひろたえみ 三角みづ紀
ヤリタミサコ 夕暮マリー
伊津野重美

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